一話 大志を抱く少年6(ⅲ)

「その紫煌石とともに、一振りの剣が掘りだされたのは知っておろうか?」
 うなずくと、剣を抜いてごらんと指示されて、ディンはしたがった。
「知っておるか?
 そなたたち寺院が使う剣は、紫煌石と共に掘りだされた剣を模したものじゃ」
 まじまじと手にした剣を見つめる。
 寺院が使うのは、大人の腕の長さほどの、直刀両刃の剣である。大人用と子ども用があるわけもなく、成人男子にはちょうどいいが、女や子どもが使うには少々重い代物だ。女はまだしも、子どもが使うことははなから度外視されているのだから仕方がない。成人するまで、普通は剣を貸与されることはないのである。
 ディンが持っているものは、もう戦場に立つことがなくなった祖父のものを、こっそり拝借してきたものだった。

 すっきりした実用一点張りの剣は、唯一の装飾のように、剣身に紫の塗料で古代の文字が刻まれている。
 今は失われた文字の意味は、諸説があってはっきりとはしない。
「寺院の武器だけが有効なのかは、寺院でもわかっておらんのじゃろう? これはわしの勝手な推測じゃが、もしかしたら寺院で鍛えられた剣が力を持つのは、紫煌石と共に掘りだされた剣を模したがゆえだとは考えられないじゃろうか?いや、正確に言うと、そこに刻まれた文字をじゃな」

 翁の推測は、納得のできるものだった。
 彼のいうとおり、寺院で鍛えられた武器にはすべて、この意味がはっきりとしない文字が刻まれている。それが当たり前だったから、特に不思議に感じたりはしなかったが、すべてに適用されているなら意味があるのだろう。
「もしそうだとしたら、模倣でさえそれだけの力を持つんじゃ。本物は……」
 確かに、とは剣を改めて見つめる。紫煌石と対になる剣だ。特別な力を持っていたとしても、不思議はない。
 ディンは剣を鞘におさめると、古木に目をもどした。

「現在剣は、寺院の手元にはありません。寺院がまだ、聖なる石の教えと名乗っていたころに失われたのだと聞きました。今どこにあるのか、翁はご存知だろうか?」
「残念じゃが」
「なら、幻妖の王がどんな幻妖なのかは?」
「すまんの。わしにわかるのは昔のことだけじゃ。見ての通り、ここから動けんからの」
「他に何か知っていそうな方を、ご存じないだろうか?」
「昔は、わしやルーシェのように話すことができる幻妖も、いなくはなかったんじゃがの。みんな人間に狩られてしもうた。最近はとんと見かけん」

「わたしたちみたいなのは少数派だ。でき損ないなんだ。普通のやつらはみんな、狂気に取りつかれてる。あきらめるんだね」
 相変わらず仔ブタをなでながら顔もあげないルーシェがそっけなくいい放つ。
「申しわけないことじゃ、たいした助けにもならんで」
 古木の謝罪に、ルーシェに向けていた目をもどすと、ディンは頭をふった。
「いいえ。少なくとも、進むべき道の指標ができた。翁、心から感謝する。ルーシェにも、翁を紹介してくれたこと、感謝する」
 振り返って礼を述べると、ルーシェがブリリアントからようやく顔をあげ、首をかしげた。

「これからどうするの? 剣を探すっていっても、あて、ないんだろ?」
「とりあえずガリエラに行く。もともとガリエラに現れた大物幻妖の討伐隊に加わるための旅だったから。その途中であちこちの寺院に立ちよって、話を聞ければと思っている」
「じゃあ、送ってやるよ。おまえ、一人でほっとくとどうも危険だし。ね、ブヒコさん」
 同意を求めたルーシェに、ブリリアントがうなずく。仔ブタにまで頼りなく思われているのかと思うと、どうにも情けない話だ。

 けれど、とディンは、古木に声をかけるルーシェを見やった。
 何故ここまで彼女は、ディンによくしてくれるのだろう。彼女のことだから、気まぐれということも考えられなくはない。
 だが、果たしてそれだけなのか。
 たんに、ディンに彼らの王を倒せるはずはないという、余裕の表れなのだろうか。それとも、仲間意識などないといっていたから、王や仲間が倒されたところで、痛痒を感じないということなのか。

 ふと、視線に気づいたのか、ディンに目を向けたルーシェがやわらかく微笑む。
 彼女のことが、ディンにはよくわからなかった。

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