一話 大志を抱く少年4(ⅰ)

 鬱蒼とした森の中を、そろいの外套に身を包んだ騎馬の一行が進んでいく。
 ガリエラの里に出現した幻妖を倒すべく、今広く騎士が集められている。ガリエラをはじめとした三つの里を滅ぼした、恐るべき幻妖だ。周辺の地域の寺院だけでは手に負えなかった。
 すべての僧と寺院とを統べる総本山ゴートからも、もちろん騎士を派遣しないわけにはいかない。それが彼ら一行だった。

 一行の隊長はドレイクという、三〇半ば過ぎの男だ。無精ひげにぼさぼさの金髪は旅をしているからではなく、これが普段からの彼の標準的ななりである。
 森に入ってしばらくしたころから、彼はしきりに山の方を気にしていた
 理由はディンにもわかる。
 普段は大人しいステアが、興奮して足並みを乱している。鳥や獣たちの気配や鳴き声もなく、かわりに体にビリビリとしびれるような圧力を感じていた。

「ドレイク」
「隊長」
 ディンが呼びかけたのと、馬を走らせ近づいてくる騎士が呼びかけたのとは、ほぼ同時だった。しんがりを務めているユリウスだ。
 彼は、ディンに拝むみたいに片手をあげてみせると、馬を寄せてドレイクと耳打ちを交わす。最後に一つうなずいてはなれていくユリウスを目で追っていると、ドレイクが馬首を並べた。

「幻妖なのか」
 問いというより確認だった。
 ディンはいまだかつて、幻妖と遭遇したことがない。
 だが幻妖がいることは、ディンにも疑いようがない。姿どころか声も聞こえないのに、しびれるほどの圧迫を感じるのだ。話に聞いている以上の存在感だと、戦慄を覚える。
 ディン以上に幻妖の存在を意識しているステアは、寄りそう馬の首に己のあごを預ける。彼女の額をなでてやりながら、ドレイクはにやにやした。

「予感が当たったみたいです。ここんとこの長雨で被害を受けたのは、橋だけではなかったようです。幻妖の封印の辺りで、土砂崩れかなんかあったんでしょう。おかげで封印が解けちまったらしい。それでどうするべきかは、頭のよいぼちゃんならおわかりでしょう?」
 皮肉のきいた口調だが、彼は誰にでもこういう話しかたをする。それを小馬鹿にしてという者もいるが、ディンは嫌いではなかった。
「もちろん」
 幻妖と聞いて、騎士が逃げだすわけにはいかない。
 たとえ幻妖に立ちむかうためのお膳だても、人数も足りず、待ちうけるのが全滅だけだったとしても。
 だからディンは、精一杯不敵に見えるようににやりと笑いかえす。
「全力で立ちむかうんだろう」

「ぼっちゃぁあん。わかっていってるとこがタチが悪いんですよ、あんたは。もどってください。麓の里に知らせにいくんです」
 一行は馬を降り、外套をぬぎ、幻妖と戦う準備をはじめている。
ディンも仲間たちにならう。
「ここで逃げだすくらいなら、最初から討伐隊に加わりたいなどとはいわない」
「ぼっちゃんはまだ若い――いや、幼い。もう数年もしたら隊の先頭に立って幻妖に立ちむかわなきゃならなくなる。
そんなに生き急いでどうすんです? 
あんたにもしものことがあったら、わたしゃ、あんたのワガママを聞いてここまで連れてきちまったことを、死んでも後悔しちまう。レオにも、なんていやあいいんです」
 真剣な眼差しをむけてくるドレイクを、ディンもまたまっすぐ見つめかえした。

Comments are closed

Hit Counter provided by Seo Packages
Web Design BangladeshBangladesh Online Market