一話 大志を抱く少年3(ⅲ)

「だからっておまえに何ができるって? 幻妖の王を倒すなんていうけど、どうやって倒すつもり? 幻妖の王がどんなヤツだか知ってるの? どこにいるかわかってる?」
「知るための旅でもある」
「求めよ、されば与えられん――って? 世の中ね、そんなに甘くないんだ」
「でも求めなければ、なにも手に入らない。待っていても、奇跡は起きない」
 ハッ、とルーシェが吐き捨てた。
「奇跡だって? 冗談じゃない! そんなものはね、この世のどこにも存在しないんだよ」
 寄りそう仔ブタが、心配げにずっと見あげていた。だが彼女は気づいていないだろう。

 ルーシェは盛んに煙を噴きあげる、今にも噴火しそうな火山を思わせた。それでも彼女がまだ、噴きだしそうな溶岩をこらえているのは、見ていてわかる。
 しかし自分の何がそうまで、彼女を怒らせているのかがわからなかった。
 不意に、困惑する視線の先で、前を行く華奢な背が立ちどまってふり返る。
「わかった」
 腰を屈めてディンの目をのぞきこむと、ルーシェはくすりと笑う。ディンは不快感を覚えた。
 その笑みは、さげすみと、優越感に裏打ちされた憐憫とが入りまじる、いやなものだった。

「おまえは単に子どもなんだ。偉そうなことをいってても、なぁんにもわかってないだけの、ただの子どもだ」
 ディンは基本的に、ひとになにをわれようと余り気にならない。なにをいわれたところで自分はしたいようにするだろう。
 ひとの意見を聞くことは大切なことだと思うが、聞きいれすぎて自分を見失うのは問題だ。ひとにはひとの、己には己の意見があり、一人よがりはいけないとさえわかっていれば十分だと思っている。
 だがさすがにディンも、子どもだからといういわれようだけは聞き捨てにできなかった。

覚えず声が険をふくむ。
「子どもも大人も関係ない。誰しもみんな、自分の考えにしたがって行動するだけだ」
「そういうとこが子どもだっていうんだよ。正義感に鼻面引っかきまわされて、自分一人で突っ走って」
 ふふんと笑いながら上体を起こしたルーシェは、進行方向へと体を戻しながらディンの額を指で突ついた。

 たいした力ではなかったと思う。
 だがディンの体は、万力に襲われたように後ろにかしいだ。
 均衡をくずした上体が宙を泳ぐ。一瞬、浮遊感が全身をつつんだ。
「ブヒッ!」
 ブリリアントが鋭く鳴いた。ルーシェが振り返る。
 しかし彼女が状況を認識したときには、ディンの体は背後にむかって倒れこんでいた。
 時も場所も悪かった。
 普通なら受け止めきれるほどの力だ。だけど疲れていて体を支えるだけの体力がなかった。
 よろめいて踏ん張ろうにも足下も悪かった。それでも、下にむかって急斜面になった山道で、なければしりもちをつくだけですんでいただろう。

 ディンは吸いこまれるように落下する。ルーシェの紫色の目が大きく見開かれる。
 その目がとてもきれいだと思った。
 思いながら背中を襲った衝撃に、ディンは意識を失った。

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