番外編

「ねえ、見てよアキーム。ジャックから返事が来たのよ」
「へえ、手紙を書いたのかい?」
 振り返った彼に、ジャックから来た絵葉書を渡しながらうなずいて、私はふふっと笑う。
「うん、あのね、『涼やかな風にこおろぎの声が聞こえてくる季節になりましたが、もうそろそろ帰ってきますか?』って」
 暑いのが苦手な友人のジャックは、一年の大半を海外で過ごしている。案の定、彼の手紙の消印は今は真冬のオーストラリアになっていて、絵葉書の表ではジャックが雪の中で笑っていた。それも一面の銀世界の中にいるとは思えないような、風邪を引くどころか凍死してしまいそうな薄着で、だ。
「へぇ、なになに。『こおろぎが鳴いていようと、そちらは私にはまだまだつらい季節です』?」
 葉書の文面を読み下したアキームは、小さく噴き出した。
「それは仕方ないね。秋とはいえ、彼の適温にはまだまだ遠く及ばない。彼の適温は冷凍庫の中だからね」
 すました顔で説明してくれるアキームに、私もすまし顔でそうね、とうなずいてみせる。
「仕方がないわね、今の気温じゃ体が痛んでしまうものね」
「そうだね、彼は究極の暑がりだからね」
 すました顔でうなずきあって、そして私たちは顔を見合わせて笑いあった。
 暑いのが苦手なジャックは、いつも寒いところを転々としている。暑いのも嫌いではないそうなのだが、なにせ体には大きな負担なのだ。だって彼は、生き物としての生をすでに終えた、生きる屍《ゾンビ》なのだから。

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