Ⅴ.その男たち、凶暴で強暴につき(ⅰ)

「息子の帰還だっつってんだろうがッ」
 殴る蹴るの暴行を加えても開かない扉に、キレた水の精霊はどげしと最後の一撃を加えた。
『泊まってもらえないのは残念だけど、今度ご飯だけでも食べにきてよ』
 朗らかに笑って手を振ったリラが、本当に残念に思っているのかかなり疑わしいところだ。だが忠告には素直に従うことにした。リラと別れた二人は、真っ直ぐにカザの養父の家へと向かった。

 もともとソーレルは、青龍祭社の訪れる巡礼の宿場町として発展した街である。便のいい場所は巡礼のための宿などが並び、居住区は隅へと追いやられている。特に慎ましく軒を並べているのが、ここ下町だ。
 だが、下町といえど参道沿いの店と同じだ。祭社との関わりを避け、しんと静まりかえっている。夕涼みに出ている人影さえなかった。
 その静まりかえった一角にシュレンティスの怒声は、当然のことながら響き渡った。
「見世モンじゃねえぞ!」
 怒声が聞こえるからと外を見てみれば、大層な美人が口汚くわめき散らしているのだ。十分に見世物である。
 ナニゴトかと様子をうかがっていたのだろう薄く開いた扉が、シュレンティスの一喝に音を立てて次々と閉ざされた。それに舌打ちし、なんつう根暗い住人だとぼやいたシュレンティスは、脇で座りこむカザを振り返る。

「おい、開かねえぞ」
「……おまえな。それは留守とかいうだろ? フツウは」
 殴っても蹴っても揺さぶっても開かない扉というのは、まるでどこぞの誰かの瞼のようだ。毎朝の苦労を思い返したカザは、痛む頭を押さえてため息をついた。
「んだと! この俺がわざわざてめえの愚息を連れてきてやったっつうのに、留守とはなんだ留守とは」
「俺にスゴんだって仕方ないだろ」
 どこからか漂ってくる、胃袋を刺激する芳しい匂いに鼻をうごめかせたシュレンティスは、力が抜けたようにその場に座りこんだ。
「ああもうダメだ、眠い。腹減った」
「だからリラのところで宿を取ろうっていったのに」
「オレのせいだっつうのかよ。文句なら留守にしてるおまえのオヤジにいえよ」
「いないオヤジにどうやっていえっての」
 張りあう気力もなく愚痴ったカザに、シュレンティスが顔をのぞきこんでくる。

「どうした? 顔色よくねえな」
 いって、シュレンティスは眉根を寄せる。
「そのワリにはにやにやしてやがって気色悪ぃ。まさか、オヤジが怖すぎて頭の線が何本か切れたか?」
「んなわけあるかッ……っつつ、頭痛いんだから怒鳴らせるなよ」
「バカ、おまえが勝手にわめいてんだよ」
 荒げた自分の声が響いて頭を抱えたカザに呆れながらも、痛みがひどく冷や汗が浮いた額に、シュレンティスが指先を伸ばす。
「熱はねえな、風邪の走りか?」

 いつもと違う案じる表情や手が照れくさくて、よせよとカザは額に触れた手を押し返した。
「違うって。いつものだ。〈声〉が聞こえるんだ」
「いつもの〈声〉か? それにしては顔色が最悪だぞ」
「なんか、いつもより〈声〉が大きいっていうか……頭痛が烈しい」
 息をつき、カザは目を閉じる。
 言葉にならない声が物理的圧力を備えているかのように、頭の中で荒れ狂っている。ずきんずきんと響くような頭痛はつらい。それでも再び声が聞こえた安堵の方が強かった。
 声が原因の頭痛ならば、そう長くは続かない。経験上それを知っているシュレンティスも、安堵の息をついた。
「しかしアレだな、マジいんじゃねえのか、この街に――危なッ……カザ!」

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