Ⅳ.背を押す声

 ごみごみした路地に複数の足音が木霊する。
 手足を地面に投げ出した姿勢で座り込んだまま、ぼんやりと霞む頭で、なんの音だっただろうかと考える。
 それはなにを意味する音だったか、と。
 もともとろくに働いたことさえない体だ。荒事にむくわけもない。飛竜が落ちたときの打ち身と、セイランと別れてから走り続けた肉体の疲労は、容易く限界を迎えていた。少しだけのつもりで座りこめば、もう動くことができなかった。
 体が重かった。土の中にのめり込んでいるみたいに全身が重くて、泥のように疲れていた。首を巡らせるのさえ億劫だ。すべてがだるくて、思考さえまともに働かない。泥砂が詰まったずだ袋になってしまったようだった。

それでもその足音は、自分の中のなにかを刺激した。ずだ袋の中に詰まった泥をかき回すような、重く怠慢な刺激だったが、アリアは音のする方へと虚ろに目をむけた。
かつ、かつ、かつ、かつかつかつかつ。
近づいてくる足音。
――行って?
耳にセイランの声が返って、セイランはどうしただろうとアリアはぼんやり考える。もう、死んでしまっただろうか? どれくらい傷を負えば生命が維持できなくなるのか、アリアにはよくわからない。それでもあれほどの傷だ、あまりもつとは思えない。
「わたしを助けてくれようとしたから……」
虚ろに呟くと、アリアの耳にセイランとは別の声が返った。

――あなたを助けようとしたために、彼女は死んだの。あなたのせいで死んだのよ。
――あなたが殺したの。

大切な、とても大切な彼女と同じ顔をしているのに、彼女ではないひと。
ひどいことを言うひと。
ひどいことだと思っているのに反論できなかった。心のどこかで認めてしまったから。彼女は言葉は正しいと、そう思ってしまったから。
ずっと思っていた。自分がここにいること自体が間違いなんだと。
その一つの間違いのせいで、すべてが歪んでしまったのかもしれない。最初の一つを掛け間違えたせいで、互い違いになってしまった釦のように。
なにもかもきっと、自分が選ばれてしまったところから始まっているのかもしれない。
だとしたら彼女の言葉は、間違いではない。

「いたぞ、こっちだ!」
――行って?
もう一度、セイランの声が耳に返る。
行かなければ……。
声に押されてアリアは立ち上がる。
「ここだ、捕まえろ!」
逃げなければ。
そしてふらり、と少女は足を踏み出した。

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